北緯60度以北に位置する広大な極北の地・ノースウエスト準州は、ほとんど人の手の着いていない自然が残されているほか、冬期の寒さが非常に厳しいことでも知られています。人口は日本の国土の4倍という面積に、わずか4万人の人が住んでいるにすぎません。以前はハドソン湾に面した東部を含めて、現在の2倍以上の面積がありましたが、東半分は1999年4月に、先住民イヌイットの自治によるヌナヴット準州として分離・独立しました。
ノースウエスト準州の名前を有名にしているのは、何と言ってもオーロラ観測が可能なことです。州都であるイエローナイフはオーロラ観光の中心地として知られ、日本からも多くの観光客が訪れています。イエローナイフは、大手旅行会社によるパッケージ・ツアーが販売されており、オーロラ観測ポイントとして、もっともアクセスしやすい場所の1つです。
このページは、私たちが1999年12月下旬に訪れたフォート・スミスでの、オーロラ観測の体験に基づいて作成しました。

イエローナイフには、1日に1〜3便(曜日によって異なります)、フォート・スミスには1日1便、アルバータ州のエドモントンから直行便が就航しています。その他の国内主要空港からはエドモントン経由の乗り継ぎになります(フォート・スミス便の復路は、ヘイ・リバーを経由します)。
イエローナイフ Yellowknife
ノースウエスト準州の州都であるフォートスミスは、日本からのオーロラ観光客の多くが訪れているオーロラ観光の中心地です。世界で10番目の大きさの、グレートスレーブ湖の湖畔にある町です。北緯62度。
フォート・スミス Fort Smith
アルバータ州とノースウエスト準州の州境に接する、人口2000人あまりの小さな町です。「オーロラベルト」の真下に位置していることから、オーロラ発生確率の高い場所として知られています。北緯60度。
→フォート・スミスでのオーロラ・ウォッチング体験記(工事中)
イヌービク Inuvik
北極圏に位置する人口2000人ほどの小さな町。かつてゴールドラッシュで栄えたことでも知られています。エドモントンから3本の飛行機を乗り継ぐ必要があるので、日程に余裕のある人向けです。北緯67度。
オーロラ観測の場所選び
カナダ北部は、北欧やアメリカのアラスカ州などとともに、世界的にもオーロラ出現確率の高い場所として知られています。ノースウエスト準州のイエローナイフ、フォートスミス、イヌービク以外にも、アルバータ州北部のフォート・マクマレーや、ユーコン準州の州都であるホワイト・ホース、マニトバ州のチャーチルなどで見ることができます。
下の図のオーロラベルトは、オーロラの発生確率の高い場所を表したものですが、カナダの北方の準州にはいずれもベルトが横切っています。オーロラは本来、極地方で見られる現象ですが、地球の自転軸と地磁気の軸がずれているため、カナダでは北緯60度前後という比較的低緯度でもオーロラが発生します。しかし低緯度とは言っても、イエローナイフなどは内陸にあるため、冬期はかなり寒さが厳しくなります。その点では北欧よりは条件が厳しいと言えます。
▼オーロラが観測できる主なポイントと「オーロラベルト」

・オーロラベルトは、オーロラの発生確率の高い場所を模式的に表したものですが、ベルトの下でも必ずしもオーロラが発生するものではありません。またベルトを外れていても、オーロラを見ることができる場合もあります。
・この図は、平均的なベルトの位置を表すために、複数の資料を参考に作成したものです。
・オーロラベルトの位置や幅は、そのときの太陽活動の強さや地球の磁場の状態などにより変化します。
オーロラ観測の時期選び
オーロラの発生は太陽活動と関係があり、ある程度の条件が整えば、夏でも昼間でも発生しています。しかし微かな光であるオーロラを観測するわけですから、見ることができるのは、どうしても夜間に出現するものに限られてしまいます。オーロラ観測のベストシーズンは、日長時間が短くなる9月から4月が良いと言われています。
ベストの時期を選ぶには、天候や月齢などの条件を考慮する必要があります。月の明かりが邪魔しないように、なるべく新月に近い日が、また天候が安定し晴天の確率の高い季節が好ましいと言われています。気温が高くなると霧が発生しやすく、オーロラの観測には向かなくなります。一般に12月〜3月ぐらいが良いと言われています。
いずれの季節でも、天候が悪ければオーロラは見えませんので、できれば3日間以上の滞在をお勧めします。場所によっては、3夜滞在で90%以上の確率でオーロラが見られると言われています。もちろん、3夜とも見られないこともありますし、3夜とも見られる場合もあります。
実際にオーロラを観に行くには
現実的に、オーロラを観に行くのは、個人での観測旅行は困難です。オーロラは午後10時〜午前2時ごろが最もよく出現すると言われています。また観測には、街の明かりの少ない郊外が適しているので、夜9時以降に町を離れて観測地に向かう必要があります。予備知識のない旅行者が、厳寒の極北の地で、それも深夜に、大自然の真っ直中に向かうのは非常に危険です。
したがって、日本の旅行会社が主催するパッケージ・ツアーに参加するか(現地ツアー会社と提携している場合もある)、現地で経験のある、専門のツアー会社が催行するオーロラツアーに参加するのが現実的です。各社は独自の観測場所などのノウハウ、暖房の効いた観測小屋などを持っているので、初めての観測でも安心して参加できます。個人旅行で行っても、現地ではツアー参加するのが良いでしょう。オーロラ観測ツアーの平均的な費用は、1人1晩あたり80〜120ドル程度です。防寒着セット(防寒靴も含まれる)のレンタルも利用できます。
気になる服装は?
厳冬期のノースウエスト準州では、時には気温が-40℃以下に下がることもあります。スキーウエア程度では全く持ちませんので、完全な防寒対策が必要になります。防寒着のセットはレンタルで利用できますが、その他の服装については以下のとおりです。
厚手のセーターやトレーナーが必要になります。ズボンもぴったりとした形のジーンズではなく、ゆとりのあるものを選びます。インナーウエアはズボン下(ももしき)を含めて、保温性のできるだけ高いものを選びます。手袋はスキー用のでも構いませんが、できればインナーグローブの入った2重構造のものを使います。
この他には、スキー用の帽子、耳かけ、フェイスマスクやネックウォーマー、カイロなどもあると良いでしょう。またイヤリングやピアスなどの金属装飾品(特に耳は冷える)は凍傷の原因になるので、なるべく外した方が良いでしょう。メガネも同じことが言えますが、これを外してはせっかくのオーロラが見えなくなるので、常にかけたままにし、金属製のつるの部分は、帽子を深くかぶって外気に直接触れないように工夫します。コンタクトレンズは問題なく使用できます。
日中の屋外アクティビティに参加する場合は、晴天に備えてサングラスもあると便利です。
撮影に必要な機材と道具
オーロラを撮影する場合、気温が低い上に、暗い中で撮影をしなければなりません。普段の写真撮影とは違った点がありますので、注意が必要です。機材としては、カメラ、三脚、レリーズ、高感度フィルム、カメラの保温のための袋、予備のバッテリーを準備します。
カメラの選定
カメラは機械式(メカニカルシャッター)が望ましいと言われていますが、電子シャッター式のカメラでも撮影が可能です。ただし低温のため電池の性能低下が激しくなるので、保温などの対策が絶対に必要です。コンパクトカメラや、フィルムメーカーから発売されている「レンズ付きフィルム」では撮影できません。またストロボは不要です。ストロボ発光は撮影に無意味であるばかりではなく、他の撮影者の妨げになるので、避けなければいけません。
デジタルカメラでの撮影例はまだ聞いたことがありませんが、シャッター開放時間が最長で8秒程度と、オーロラの撮影には露出時間不足と考えられます。仮に長いシャッター開放ができても、CCDの性能が普通の高感度フィルム(銀塩)に比べて、どの程度かによると思います。現実的には写らないと考えた方が良いでしょう。
ビデオカメラは光量が少ないため、まず撮影はできません。1/30秒というシャッタースピードであることと、夜の空などでは、焦点が定まらずAFが機能しないことがその理由です。実際に試しましたが、私たちは撮影に成功しませんでした。テレビ番組などでオーロラを撮影しているのは、業務用の高感度カメラによるものです。
レンズ、三脚、電池、保温袋
レンズは焦点距離20〜30mmの広角レンズで、なるべく明るいもの(F=2以下が望ましい)を使います。三脚はなるべくしっかりしたものが良いですが、現地まで手荷物で持っていくため、あまり重いものでは大変です。適当なものを選びます。雪がある場合は三脚の足が雪に埋まりますので、ある程度の深さまでしっかり埋めることが必要です。
カメラの保温のための袋を用意します。私は自作しました。カメラの保温は、電池の消耗を防ぐ目的の他、フィルム送りなど駆動系の保護の役目も果たします。低温ではモーターやギアの潤滑油の粘度が上がり、駆動系に負荷をかけます。
低温ではフィルムの基材そのものが固化して柔軟性を失うため、巻き上げの時に切れてしまうことがあります。フィルム送りが手動式の場合は、ゆっくりと注意深く巻き上げること、自動巻き上げの場合は保温をしっかりして、巻き上げ機構の温度を下げないことが重要です。万一フィルムが切れてしまった場合は、撮影済みのフィルムをあきらめるのが早道ですが、どうしてもあきらめられない場合は、光を完全に遮断した場所で取り出し、完全に遮光した状態で持ち帰り、信頼のおける写真店に相談してみましょう。もともと高感度フィルムを入れている場合がほとんどだと思いますので、助かる見込みは低いと思います。
自作のカメラ保温袋。市販の水筒用の保温袋に穴をあけて作成。中には使い捨てカイロを入れてバッテリー付近を暖めるように配慮しています。
撮影の条件
シャッタースピードは「B(バルブ)」に設定し、開放時間は20秒〜60秒程度(ASA400の場合)が良いとされています。シャッターは必ずレリーズを使い、カメラ本体には触れないようにします。オートフォーカス機能がついているカメラでも、フォーカスをマニュアルモードにし、∞(無限遠)に固定します。なお、被写体が暗く、ファインダーをのぞきながら焦点を合わせるのは困難です。絞りは最も明るく(開放)します。
フィルムは普通に売られているネガフィルムか、スライド用のリバーサルフィルムを使いますが、いずれも高感度(ASA400〜1600)のものを使います。ASA800以上の高感度のフィルムは、撮影前・撮影後を問わず、空港の手荷物検査でのX線の露光の心配がありますが、近年のセキュリティチェック強化の状況では、すべてX線検査装置を通すことになっているようです。
この他の注意点
三脚やカメラなどの金属部分は素手で直接触れないようにします。
予備のバッテリーも必要です。性能を維持するため常に懐に入れて暖めておいた方が良いですが、どうしても交換の時に冷えてしまうので、実際に野外でバッテリーを交換するのは難しいでしょう。カメラに入っているバッテリーが消耗しないように保温につとめるのが一番です。
撮影後のカメラは、結露防止のため、保温袋ごとポリ袋に入れて、空気をできるだけ抜いて、部屋に持ち込みます。この際、いきなり暖炉のある部屋などに持ち込むと、急激な温度変化でカメラやフィルムを傷めることがあるので、長時間かけて徐々に温度を上げます。部屋の出入り口付近の気温の低いところに置いたほうが良いでしょう。フィルムの交換はカメラが十分に室温に馴染んでから行います。したがって、オーロラ撮影のときは途中のフィルム交換は難しいと考えた方が良いでしょう。
|